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Books for Teachers

学校教育をよりよくしたいと思う方、そして現場でがんばる先生たちにおススメの本を紹介します。

大学入試は、高校教育は変わるのか?―高大接続改革

教育政策 教育全般 妹尾昌俊

高大接続改革-変わる入試と教育システム (紹介:妹尾昌俊)

高大接続改革: 変わる入試と教育システム (ちくま新書)

高大接続改革: 変わる入試と教育システム (ちくま新書)

 

2020年にあるのは東京オリンピックだけではない。大学入試改革だ。現行のセンター試験は2020年度に廃止され、新しいテストに代わる。大学入試はどう変わるのか、それに伴い高校や大学の授業はどうなるのか、今のうちに学校や家庭でやっていくべきことは何か。全国各地の高校・大学を飛び回っている山内太地さんと、アクティブラーニングに精通する本間正人先生による新書。

 なぜ大学入試改革か、保護者にも読んでほしい

「高大接続改革」という本書のタイトルは、おそらくフツーの保護者にはとっつきにくいかもしれない。しかし、本書はさきほど述べたとおり、大学入試やその準備に関する内容も多く、保護者向けにも書かれている。

とりわけ、センター試験に代わる新テストが始まる今の中学2年生以下、また次期学習指導要領にもとづく高校教育が行われ、それに沿った内容で新テストが本格導入されるのが今の小学4年生以下。該当する親御さんは見ておいて損はない(うちの家はまさににこの世代に当たる)。

センター試験はなぜ廃止されるのか?ざっくりまとめると、知識を〇×式で試すだけではこれからの時代を生きる力として不十分だから。そこで、新しい共通テストでは思考力・判断力・表現力をより求めるようにしようという発想らしい。これに伴い、これまで高校の授業では受験対策として先生が一方通行的に教えるかたちが一般的だったが(これは大学も同様)、高校と大学が一体となって授業を教育を変えていこうというのが高大接続改革のひとつの趣旨である。

すでに高校の現場、大学の講義の現場 で、どんな「アクティブラーニング=能動的な学習」を生徒・学生にさせたらよいのかという議論は盛り上がっており、本もたくさん出ています。・・・(中略)・・・でもまだ、保護者や塾・予備校・マスコミなどの世界では、「東大合格」「有名中学・高校に入れたかどうか」の話題が花盛り。このギャップを埋めるために書いたのが本書です。(p.10)

ここにあるとおり、本書ではなぜ大学入試改革が必要とされているのか、今の高校生は勉強しない、本も読まない、スマホの時間はかなりある(男子で3.8時間、女子で5.5時間)という実態などもあわせて解説している。

似た内容は、国の高大接続システム改革会議の最終報告と参考資料などにもあるが、フツーの人が読むのはしんどい。その点、本書は読みやすく、要点を理解できる。

高大接続システム改革会議「最終報告」の公表について:文部科学省

 

入試は本当にドラスティックに変わるのか?

2020年度からのこの入試改革について、メディアやネットの情報では、いかにも大変革が起こるようなトーンで書かれているものも散見される。本当にそうなのか?そのあたりは正直だれにもわからないわけだが、山内さんの次の指摘も注目したい。

56万人が長文で記述したものを誰が採点するのかという問題を考えるとき、おのずと、記述式といっても限定された内容にならざるを得ないでしょう。(p.42)

このあたりは、当たり前と言えば当たり前なのだが、重要な点だと思う。理想がいくら高くても、現実や運用はそうはいかない。しかも、当面はこの部分的な記述式試験が導入されるのは、国語と数学に限られる予定だ。

関連して、最近のニュース記事も参考になる。

最大の懸念は既に各大学の2次試験で記述式を導入している大学や学部が、わざわざ新たな負担を引き受けてまで新テストの記述式を採用するのかどうかが不透明な点だ。受験者数の多い私立大が参加するかも分からない。

mainichi.jp

大切なのは学歴よりも学習歴?

このように、制約もあって大学入試が劇的に変わるかどうかは、よくわからない。といっても、大学入試がどうなろうが、子どもたちが大人になるときに求められるスキルや能力として、より主体性が求められることには違いはないだろう。

本書では本間先生はこう述べている。

私は、社会人としての成功の鍵は「最終学歴」ではなく、「最新学習歴の更新」にあると考えています。(p.85)

つまり、子どものときどれほどたくさん知識を詰め込んだかではなく、知識の多くは検索したり、AIで教えてもらえる時代なのだから、学び続けることが大事だというわけ。この点で、高校は、(そして大学も、小中学校も)うまく動機付けできているだろうか?

主体的な学びということであれば、アクティブラーニングはいま教育業界では流行りのキーワードだ。しかも、本来高校教育について必要性が言われてきたアクティブラーニングが、いつの間には小中学校にも必要、となってきた。

背景にあるのはドミノのような理屈。大学入試が変わると、高校教育が変わる。高校教育が変わると中学校教育も変わる。中学校が変わると小学校も変わるというふうな。

国の政策や審議会が当然の前提としている(ふうに見える)このことについて、本間先生は次のように疑問をはさんでいる。

「教育改革=試験改革」という議論の軸足に、違和感を覚えます。「試験準備のために教育がある」という発想が中教審委員の中に根強く残っている「癖」を感じるのです。(p.49)

 「試験が変わると、教育も変わる部分はある」というのはおそらく多くの場合当てはまるだろうとわたしは思う。しかし、「試験だけが本当にキラーパスとなるのか」と言われれば、そうではないかもしれない。

試験以前の問題として、子どもたちには、学ぶ意欲や好奇心、何かに挑戦しようという志はあるだろうか?本来、高大接続改革の趣旨は、入試改革とそれに伴う授業やカリキュラムの改善だけではないはずだ。

本書を通じて、大学入試改革の行方とその背景にある教育のあり方を考える時間になればと思う。

 

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妹尾 昌俊(せのお まさとし)

学校マネジメントコンサルタント、Books for Teachersの世話役、4人の子育てに修行中。野村総合研究所を経て、フリーに。教職員向け講演・研修などを行っている。

著書『変わる学校、変わらない学校-学校マネジメントの成功と失敗の分かれ道』では、活性化している学校とそうではない学校との違いを分析、今後の学校づくりの方向性を提言。

文科省の有識者会議やフォーラム、教員研修センターのマネジメント研修などでも講師を務める。

ブログ:

http://senoom.hateblo.jp