GRITやり抜く力② やり抜く力を伸ばすには?
GRITやり抜く力② やり抜く力を伸ばすには? (紹介:妹尾昌俊)
やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける
- 作者: アンジェラ・ダックワース,神崎朗子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2016/09/09
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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(とてもこころに残る本だったので、2回にわたって紹介します。)
本書は、大きな成功をおさめる人々に共通するものは何か、それは「GRIT(やり抜く力)」である、ということを書いている。やり抜く力とは、情熱と粘り強さの2つの要素から測定可能なもの。知能指数(IQ)や性格の多くよりも、「やり抜く力」のほうが成功には影響するというのだ。
学校で伸ばすべきものとは?
前回のレビューでは、なぜ「やり抜く力」に注目するのか、「やり抜く力」は学校教育とどう関係するかなどについて紹介した。 学力テストなど表面的に表れやすい結果に一喜一憂する気持ちはわからないわけではないが、教師や親、教育行政の担当者は、表面的な学力よりも「やり抜く力」を伸ばせているかどうかを考えなければならないのかもしれない。
これは、よく言われるように、「いい大学やいい会社に行ったからといって、幸せになるとは限らない」という話にも似ている。フェイスブックやグーグルなどが「やり抜く力」に注目した採用を行っていると言われているのも示唆的だ。
※前回の記事はコチラ
やり抜く力は伸びる
さて、本書の魅力は、この「やり抜く力」は固定的なものではなく、伸ばせるということ、そしてさまざまな伸ばし方が紹介されている点である。
著者は関連する他の研究成果にも触れながら、大きく成功した人、「やり抜く力」の鉄人たちには共通したものがあるという。それは
- 「この仕事が大好きだ」という人がほとんど。つまり、自分の好きなことや興味を仕事と結びつけている。
- 「カイゼン」を繰り返し行っていること。すでに卓越した技術や知識を身につけているにもかかわらず、さらに上を目指して行動していること。
具体的な「やり抜く力」の伸ばし方の例のひとつとして、「意図的な練習(deliberate practice)」(「よく練られた練習」とでも訳したほうがよいかもしれないが)というのがある。deliberate practiceとは、ストレッチ目標(高めの目標)を設定し、集中してその目標達成に努力する。改善すべき点をフィードバックしてもらうなどして、うまくできるまで何度でも繰り返し練習する。漫然と長時間練習すればよいというものではない、ということだ。
人のためになるなど、目的がある人はやり抜く力も強い
次のグラフは本書p207に掲載されているもの。著者が1万6千人の米国人(成人)にアンケート調査した結果だという。
「やり抜く力」が強い人びとは修道士でもなければ、快楽主義者でもない。快楽の追求という点から見れば、ふつうの人と何ら変わらない。・・・(中略)・・・「やり抜く力」の強い人びとは、ふつうの人にくらべて、「意義のある生き方」「ほかの人びとの役に立つ生き方をしたい」、というモチベーションが著しく高い。・・・(中略)・・・私がここで言いたいのは、「目的」はほとんどの人にとって、とてつもなく強力なモチベーションの源になっているということ。(p.207,208)
自分のやっていることが、人や世の中とどうかかわっているかを意識することが大事だということだろう。これは本書の日本語訳では「目的」となっているが、「志」と言い換えることもできるだろう。
横浜の上永谷中学校などでは「志教育」というのに力を入れている。生徒たちは、自分は「○○になりたい」と述べるだけではなく、「○○のために」というところを大事にして考えている。自分のなかで志という軸ができることで、勉強する意味や何かを続けることの意味をもって卒業後も生きてほしい、と考えているからだろうと思う。
http://kokorozashi.me/activity/m_school.html
また、本書では、「やり抜く力」の強い人は成長思考(知的能力は大きく向上させることができると考えている等)も強いということが紹介されている。反対に、自分はやってもダメだとか、能力は変えることはできない、といった固定思考が強いと、粘り強くなれない。日本の中高生は、国際的にみて、学力はトップクラスなのだが、自己肯定感は低い、という調査結果が出ていることを鑑みると、家庭や学校で、子どもたちに伸ばすべき大切なことをわたしたちは置き去りにしてはいないか、考えさせられた。
課外活動を絶対にすべし
もうひとつ学校教育や子育てへの強力なヒントがある。本書第11章は、「課外活動」を絶対にすべし、というタイトルなのだから。
マーゴ・ガードナーらは1万1千人のアメリカの10代を対象に26歳になるまで追跡調査を実施した。
高校で課外活動を1年以上続けた生徒たちは、大学の卒業率が著しく高く、コミュニティのボランティア活動への参加率も高いことがわかった。さらに、課外活動を2年以上続けた生徒に限って、1週間あたりの課外活動時間数が多かった生徒ほど、就業率も高く、収入も高いことがわかった。(p.304)
別の調査では次の結果が出ている。
高校の成績とSAT(引用者注:大学進学適性試験)のスコアが同じレベルの生徒たちのその後のようすを比較した場合、高校の課外活動を最後までやり通した生徒は、ほかのどの項目で高評価を獲得した生徒よりも、優秀な成績で大学を卒業したことがわかった。・・・(中略)・・・ここで注目すべき点は、高校で「どんな活動に打ち込んだか」は問題ではないことだ。テニスでも、生徒会でも、ディベートクラブでも何でもいい。重要なのは、やろうと決めたことを、1年たってもやめずに翌年も続け、そのあいだに何らかの進歩を遂げることなのだ。(p.308)
アメリカと日本では事情は異なる点もあるだろうが、日本でも部活動の意義が問いなおされている昨今、大いに参考になる。おそらく、日本の教師の多くは、科学的な分析はさておき、自身の教え子たちの経験として、部活をがんばった生徒は、勉強やほかの活動でもがんばるし、卒業後も粘り強く生きているやつが多い、ということを知っているのだ。
部活を縮小しよう、休養日を設けようというときに、反対意見が保護者のみならず、学校の中からも出るのは、こうした部活の効用を身に染みているからだと思う。
一方、本書のレビューから脱線するので、短く済ませるが、本書では、教師が課外活動の世話をしなければいけない、とは一言も書いていない。また、「どんな活動に打ち込んだか」は問題ではない、と書いているところにも注目だ。
部活であれ、趣味であれ、勉強以外にも楽しく打ち込めるものを見つける手助けをすることが学校、あるいは家庭には必要かもしれない。
誰でも「天才」になれる
最後に、次の一節を。本書の最後はこういう言葉で締めくくられている。
「天才」とは「自分の全存在をかけて、たゆまぬ努力によって卓越性を究めること」と定義するなら、・・・(中略)・・・あなたにも同じ覚悟があれば、あなたも天才なのだ。
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妹尾 昌俊(せのお まさとし)
学校マネジメントコンサルタント、Books for Teachersの世話役、4人の子育てに修行中。野村総合研究所を経て、フリーに。教職員向け講演・研修などを行っている。
著書『変わる学校、変わらない学校-学校マネジメントの成功と失敗の分かれ道』では、活性化している学校とそうではない学校との違いを分析、今後の学校づくりの方向性を提言。
文科省の有識者会議やフォーラム、教員研修センターのマネジメント研修などでも講師を務める。
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