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学校教育をよりよくしたいと思う方、そして現場でがんばる先生たちにおススメの本を紹介します。

校長のリーダーシップとは!?具体的に言ってみろ

The Pricipal (紹介:妹尾昌俊)

The Principal 校長のリーダーシップとは

The Principal 校長のリーダーシップとは

 

あなたの組織の困った上司、といった話題には事欠かないというビジネスパーソンは多いだろうが、学校も例外ではない。「正直、校長は何もしないならまだマシなんだけど、ジャマをしたり、事態をよけいややこしくしたりする」といった教職員の声を聞いたことがあるのは、一度や二度ではない。同時に僕は数多くの現場を訪れる中で、本当に優れた校長がいることも知っている。あなたの学校ではどっちだろうか?

校長の役割、とりわけ、どこにリーダーシップを発揮するべきかについて、悩みや迷い、あるいは不満、自己陶酔があるなら、本書をおススメする。

 困ったときの頼みの綱、みんな大好き?リーダーシップ

校長はリーダーシップをもっと発揮すべし、なんて議論はずっと昔からあるのだろうが、最近は以前に増してよく聞くようになった。たとえば、中教審の「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」(平成27年12月21日)を読むと、頻出するキーワードのひとつが「リーダーシップ」や「マネジメント」だ。

校長は,学校の長として,リーダーシップを発揮するために,まず,子供や地域の実態を踏まえ,学校の教育ビジョンを示し,教職員の意識や取組の方向性の共有を図ることが重要である。

・・・中略・・・

学校の教育活動の質を高めるためには,校長の教育的リーダーシップが重要であり,教育指導等の点で教職員の力を伸ばしていくことができるような資質も求められている。

しかしながら、

  • リーダーシップって具体的には何が必要なのだろうか?
  • ビジョンを示すことはリーダーシップを発揮する前提のように書いているけど、じゃあ、リーダーシップは教職員をひっぱってビジョンを実現させるということなの?
  • 「教育的リーダーシップ」と書いているのは、教師をちゃんと指導しないということだろうか?

などのモヤモヤ感にはちゃんと国の答申等では答えてくれないように見える。

いじわるな表現をすれば、リーダーシップを発揮せよというメッセージは、包括的、抽象的な概念過ぎて、「校長さん、いろいろ大変じゃろうが、まあ、がんばれよ」と言っているのと、何がどう違うのかが分からない。

そんなとき、参考になるのが本書『The Principal-校長のリーダーシップとは』だ(本の紹介の前置きが長くなり過ぎたが)。

学校マネジメントのカナダの大家のマイケル・フラン教授が書いたものだが、幸い、分かりやすく翻訳してくれているので、とても読みやすい。メインは管理職向けだが、一般の教職員が読んでも、とても参考になる。

さまざまな研究で検証されていることは何かわかる

本書は主にアメリカの学校(おそらく小中)での校長の役割について、既存研究の知見をコンパクトに要約してくれており、なるほど、ここの部分はある程度検証されているんだなということが分かる。

アメリカやカナダの話が多いが、課題や失敗例など、驚くほど日本と似ているのも、興味深い(こんど詳しく取材したいなあ・・・)。たとえば、アカウンタビリティを強調し、学校を縛ろうとし過ぎることの危険について書いてあり、学力テストの結果が人事評価ともかかわるため、不正する学校があったことなど、日米相似する。

 

校長の役割①:学びのリーダーたれ。個々の教師を指導することではなく。

本書のポイントをざっくりと要約するならば、校長の役割、リーダーシップの発揮のしどころのひとつは、「学びのリーダー」になれというメッセージである。

これは、誤解されやすいが、個々の教師の授業を見て、詳細にフィードバックするなどを指さない。それに効果がないわけではないが、

教師たちがチームとなって働く能力を育成するために時間をかけるほうが、教師たちを個別に観察するために時間をかけるようりも、はるかによい

(p.59、ただしデュフールらの論文からの引用)

 

(引用者注:教育改革や新しい教育システムの)前提としているものがすべて個別主義になっている。集団を育てるということについて、戦略らしきものが一切見られないのである。あたかも、システムには管理監督をする能力が無限に備わっていると言わんばかりであり、また校長は教師を一回に一人ずつ変えていくための時間を無際限にもっていると言わんばかりである。(p.68)

と述べている。

校長は教職員の学びの阻害要因を取り除く役回り

つまり、一人ひとりの教師について詳しく校長がみる時間は足りないので、それよりも、「教職員が学び合う関係づくり、環境づくりに校長は精を出せよ」というメッセージだ。

逆に言えば、教師の学びの「集中を妨げる要因」に対処するのが校長の役割である、と述べている。

こうした点は、しごくもっともなことなのだが、改めて実感できたし、また米国のさまざまな研究成果がその示唆である点は、勉強になった。教職員の多忙化が大きなテーマになっている日本の学校や教育委員会にとって、「集中を妨げる要因」に対処せよ、と言われると、耳が痛いな話であろう。。。

実際、本書で引用されている(p.78)こととして、校長の役割と生徒の学習到達度との関係が強いものとして、ある研究では以下のことがわかった(※詳細は不明だが、たぶん相関関係)。

  • 目標および期待値の設定(0.42)
  • 戦略的なリソース(資源)確保(0.31)
  • 良質な指導の確保(0.42)
  • 教師の学びおよび能力育成をリードすること(0.84)
  • 秩序ある環境と安全の確保(0.27)

カッコ内の数字が大きいほど関係性が強いので、「教師の学びおよび能力育成をリードすること」はもっとも学力に効果があると期待される役割というわけだ。

授業研究の伝統のある日本の教育現場にこそ、参考になる

本書を読むまでもなく、教職員の学び合う関係(同僚性、あるいは教職員間のソーシャルキャピタル)の重要性は、日本の研究でもたびたび言われてきたことだ。それに、日本の授業研究は、世界に先駆けたものであり、lesson studyとして海外でも大きな注目を浴びて来た。

しかし、この授業研究も形骸化しているという声もちらほら聞く。あるいは、指導案の検討は重要だとしても、そこの細かい点に丁寧すぎて、授業方法などの人材育成になっていない例や、授業研究の後のフォローアップが大変薄い例もよくある。まさに、授業研究をどう活性化して、教職員間の学びを促すか、そこは校長のリーダーシップの発揮しどころだろう(教頭や研究主任もいるし、校長だけの役割ではないけれど)。

また、教職員の学び合いの効果を科学的な検証結果や成功例・失敗例などを紹介しつつ、校長等向けに分かりやすく解説した本は、そうあるだろうか?

あまりピンとくる本がそう多くないとすれば、本書を読む意味は大いにあると思う。

 

校長の役割②:近隣校を含めた地域の教育力アップに尽力せよ

加えて、本書で強調していることとして、「校長は自分の学校だけがハッピーになったら、それでええの?」と問いかけている点だ。本書では「学校区レベルのプレーヤー、システムレベルのプレーヤーとなる」とされているが、日本風に言えば、近隣の小中学校やその自治体内外での学校間の学び合い、連携をリードする役割も大切だ、ということ。

このあたりの話は、僕がインタビューするとき、「本校の生徒は素直でよい子たちばかりです(要するに大きな問題はありません)」と安心している校長たちに、けっこう出会うのだけれど、その方々にぜひ読んでほしい。「せっかくいい学校なんだったら、他の学校にも広げられることもしよう」と申し上げたい。

以上のように、校長のリーダーシップを具体的に考える優れた教材が本書だ。もっとも、本書でもまだまだ具体性に欠ける箇所はいくつもある。学校によって環境も子供も課題も異なるので、ある程度は仕方がない。

本書を読んで、どう具体的に翻訳して活かせるかも、学びのリーダーとしての校長の力量というべきか。

 

~関連記事~校長の役割や学び合う職場づくりについて

◎本書にも引用されている教職員間の関係性、ソーシャルキャピタルが学力等に思いのほか影響するという論文を紹介↓

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◎村上春樹さんのエッセイ。学校で伸ばすべき力とは何か、見つめなおすことができる本↓

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◎授業研究会の工夫がいっぱいの横浜市立永田台小学校の実践について

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妹尾 昌俊(せのお まさとし)

学校マネジメントコンサルタント、Books for Teachersの世話役、4人の子育てに修行中。野村総合研究所を経て、フリーに。教職員向け講演・研修などを行っている。

著書『変わる学校、変わらない学校-学校マネジメントの成功と失敗の分かれ道』では、活性化している学校とそうではない学校との違いを分析、今後の学校づくりの方向性を提言。

文科省の有識者会議やフォーラム、教員研修センターのマネジメント研修などでも講師を務める。

ブログ:

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