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PTAをけっこうラクにたのしくする本、PTAがやっぱりコワい人のための本

  • PTAをけっこうラクにたのしくする本、PTAがやっぱりコワい人のための本 (紹介:栁澤 靖明)

PTAをけっこうラクにたのしくする本

PTAをけっこうラクにたのしくする本

 
PTAがやっぱりコワい人のための本

PTAがやっぱりコワい人のための本

 

 PTAの関連本は多く出ているが、この2冊(通称『ラク本』と『コワ本』)は、特にオススメである。それはPTAを理論的に頭で考えるだけではなく、実践的に足で実態を調査して紹介している内容が多く、PTA会員や役員の疑問に〈理論と実践〉でこたえているからである。

 謎の多いPTAのギモンに答える本

『PTAがやっぱりコワい人の……』とタイトルアップされるのはなぜか、そのこたえのひとつは外側からは〈謎〉に包まれている部分がPTAには多いからではないだろうか。本書では、PTAの会計担当は教頭や副校長、教務主任と書かれていることが多いが、実際は事務職員も担当している場合が多い。拙著『本当の学校事務の話をしよう』でもPTA会費や卒業対策費に関して数ページだけ取り上げただけだが、関心が高いPTA会員や役員の方からの反響は大きく、たまにTwitterやFacebookなどから質問をいただくこともある。それだけ情報に飢えている会員・役員は多いのだろう。

PTAは、Parent-Teacher Associationの頭文字をとった言葉であり、Parent(親)とTeacher(教職員)による社会教育団体である。そのうち本書は、おもに「P」の立場である保護者の読者を想定して書かれている。

わたしは、長男が保育園に入った時期から保護者会などの役員を経験し、小学校入学と同時にPTA役員に立候補した。そして、学級理事・広報部理事・学年部理事と毎年なんらかの役員をしている。いわゆるPTA組織における「P」としての経験もできる限り積んできた。さらに、「T」としての活動も仕事上15年間かかわっている(会計担当が多いが、幹事という立場や広報部チーフなどもあった)。そのため、双方の立場からPTAに対して疑問に思うことや、課題を感じることも多くある。

特に、「T」の立場しか経験したことがない教職員には、ぜひ「P」の立場から書かれた本書に触れてほしい。教職員は、PTA活動に対して上層部の役員と話す機会はあるが、一般会員からのそれは新鮮に感じるだろう。

PTA活動を見直そう(”改革の教科書”としての本書)

わたしもそうだが、立候補をしてまで役員を引き受ける人は「PTAの活動を見直したい!」と思っている人が多数だと思う。もちろん、少数派として「低学年のうちにやってしまおう!」という話も聞くが、多くは〈改革を目標にあげている人〉──と、そう思いたい。

そんなときに、立ちはだかる〈壁〉がいくつかあるが、本書ではその壁を乗り越えるための「改革のコツ10箇条」をあげている。問題は何か? その所在はどこにあるか? 解決方法は? 改革提案の仕方は? どこまで変える? だれと協議し、どこで合意を得ればよい? ──など、PTAが抱えている課題に対して、解決ための素材が用意されていることも本書を薦めるポイントである。

コツ1:PTAの本来の目的を確認する。
コツ2:問題点を共有しておく。
コツ3:あるていど観察してから。
コツ4:先に完成図を見せる。
コツ5:気軽にトライする。
コツ6:陰口はとりあわない。
コツ7:めげない。
コツ8:過去の否定ではないことを伝える。
コツ9:まず、やってみる。
コツ10:無理のない範囲で変える。──『ラク本』51頁

実際に「T」の立場で改革を進めてきたわたしの経験からも、役立つと思われるコツが列挙されていると思う。「P」の立場からではなおのこと本当にすべてが重要となってくるポイントだろう。

まず、〈例年どおり〉が一番の参考書となっている現状があり、改革が阻まれる問題の発端でもある。そのため、会議でも前年度の活動内容が提示され役割分担の穴埋めから始まることが多い。これは悪い例として批判しているのではなく、1年という任期を考えれば今年さえ終わればといいという感覚から、当然のことと思えなくもない。そこにPTA活動の落とし穴が存在していると思う。

継続的にかかわっている人の多くは、執行部と呼ばれる各部(広報部や保健厚生部など)より、活動全般を総括する本部付的な立場の人たちが多い。しかし、その人たちは○○部の会議には出席しないことが多く、○○部としての意見を常任理事会などという上層部会議で共有するだけのことが多い。そのため、各部として反省や課題が引き継がれにくいことも考えられる。

実際にわたしも、この10箇条を参考にして「P」の立場でも少しずつ改革提案をしている。改革がなかなか思うようには進まずモチベーションを保つのすら難しい状況もある。しかし、同じような立場で頑張っている人には、ところどころで本書に書かれているエピソードが共感でき、勇気をもらえることも多いだろう。さらにそれらに対して、改善策が示されている本書は〈改革の教科書〉としても使えるだろう。

男性の参加

PTA組織で「P」としての会員は親だけではない。父親や母親、養親、後見人の場合もあるが、おおきく括れば子どもを保護する者、保護者となる。まれに、会費を両親がいる場合は2口加入などと集金している状況も聞くが、多くは家庭数で会費が納められ、家庭数で会員数が決まる。そのため、役員は母親でなくともよいはずだが、父親を含めた男性の役員は極端に少ないことが事実である。わたしは地方のPTA組織についてはそんなに知らないが、専業主婦の割合が多いとされる都心ではそれが謙虚に表れている。

わたしが会議に行った際、「間違って子どもの名前を書いちゃったのかと思いました」と言われたことがあるくらいだ。そんな中、本書では男性のPTA参加にかんするコラムが書かれている。

これまで長いあいだ、「会長以外は女性だけ」というPTAがほとんどでした。最近はだんだん父親の参加も増えていますが、まだ母親と同レベルにはほど遠いのが現実です。ですが、そのようなPTAは、もはや時代にあいません。[父親の参加を増やすためには:引用者]活動の時間帯を変える必要があります。──『ラク本』58頁

活動の時間帯、これはわたしも会議の度に発言していることである。でも、まだまだ多勢に無勢で実現できず、「PTA活動は子どもが学校に行っているあいだにやるもの」と定義されたこともある。そのため、わたしは毎月休暇を申請しているのが実態だ(もちろんメンバーも休暇を取っているか、休みの日を指定しているとは思うが、仕事が終わってからの会議でも休日でも、最大公約数で日程を決めればよいと思っている。それが、現状は前出の定義なのかもしれないが…)。

本書では、父親の意識だけではなく母親の意識も変えるべきとしている。たとえば、引用したように「会長以外は女性が当たり前」や、めずらしく参加している父親に対して「男性だから立てなきゃ!」という意識で役職(会長や副会長ルート)にまつりあげてしまうと、よほど覚悟のある父親しかPTAに近づけなくなるという警笛も鳴らしている。

さらにわたしのエピソードをひとつ紹介する。数年前に学年の保護者同士でランチ会を開いたときのことだ。驚くことに出席率は約70%で58人が参加した。母親向けに広報したわけではもちろんないが、性別の比率は、女:男=57:1という結果であり、わたし史上最大の〈女子会〉となった(笑)。このことは、わたしだから笑える話である。

子どもがいなくてよかった

「子どもがいなくてよかった」。この言葉は、本書で一番衝撃を受けた一文である。

それは著者が高校時代の友人と会ったときのエピソードで紹介されている。

彼女は子どもがいないのですが、何かの拍子でPTAの話題になり、「PTAってたいへんそうだね? 子どもはほしかったけれど、PTAのことを考えると『いなくてよかった』って思うよ」と、真顔で話してくれました。

以前は、不妊治療で悩んでいた友人が、PTAのおかげで前向きになれたならとてもうれしいのですが、それにしても、「そこまで嫌われているPTAってスゴイな!」とヘンな感心もしてしまいました。──『コワ本』29頁

わたしも著者と同じく、「そこまで思う人もいるのか!」と衝撃であった。しかし、そこまで言わせてしまう、思わせてしまう、〈外からみるPTA活動〉に少しずつメスを入れていかなくてはならないと、改めて感じた。

このことに対して、著者は〈強制が嫌悪感をうむ悪循環〉と整理している。確かにPTA活動に強制は少なくない。「○○研修会に、□□部からは●●人参加してください」というような動員要請をよく聞くし、「全員何らかの役を担ってもらいます! という懇談会での役員決め」などがある。そのような強制状態に対するデメリットとして①「問題が先送りされる」こと、②「つらい状況の人を追い詰めてしまう」、③「いらない仕事が増える」などをあげている。

冒頭でも述べたが、強制により集まった集団では問題解決の糸口に辿り着かないことが多く、とりあえず任期を終えることを目標にしてしまうことがある。そのような状態では①を検討するまで至らないだろう。②は最重要課題と捉えるべきである。たとえば、本人や家族が闘病中や介護中、トリプルワークを余儀なくされている人などもいる中で、本当にできそうもない状態の人に対しても一人一役を求める場合がある(逃げ得をさせない雰囲気は強い)。このような場合は免除してもいいのでは? と考える人が多いと思うが、そのためには「個人的な事情」を周囲に明かさなくてはならい。その理由を明かしたくないために、悩みを抱えながら活動をしている人もいると書かれている。しかも、それが③のような事態を招くなら本末転倒の極みである。

ハッピーなPTAをつくるために

『コワ本』の巻末には「ハッピーなPTAをつくるために」と題したインタビュー記事がいくつか掲載されている。その中で、とことん活動をIT化した結果、会議に集まる回数や時間も削減でき、活動費に関しても印刷コストを半分にできたという川上慎市郎さんとの対談をかんたんに紹介する。

まず、おもな連絡手段や意見交換、日程調整などはFacebook(スマホでもガラケーでもパソコンでも使いやすいという考えから、とのこと)を利用することに変更した。さらに、登録が難しいという人には自らレクチャーを続けていき定着を図ったという。たしかに、わたしの経験でも役員になったらまずLINEのIDを聞かれ即座にグループが組まれる。そういう時代ではあるのかもしれない。こういった部分の改革で「たいへんなのは最初だけ」と川上さんは言う。

また、(おそらく)IT化により減った部分の仕事を見直して、役割分担を明確に提示した。これにより役員の定数が改善され、必要な部分に必要なだけ配置することが実現できたのだろう。よくある配置基準は、仕事に対して何人必要かという配置基準〈仕事ベース〉ではなく、学級に対して何人選出するかという配置基準〈学級ベース〉の方が強い場合が多い。定数改革はPTA組織でも近々の課題であろう。みんなでやることも大切だが、できる人がやるという視点も必要であると考える。

まずは、「平等論を見直すことから始めるべきだ」と川上さんは言っている。

川上:PTAってね、公立校的な「平等論」をもち込んだ瞬間に、よさが死んじゃうんですよ。

大塚:ん、どういう意味ですか?

川上:学校もお役所だから「全員が平等にできないことはやれません」っていうのがルールなんです。PTAはそうじゃなくて、「やりたいやつがやってるんだから、文句言うな」というロジックを貫かなければいけない(笑)。──『コワ本』180頁

この提案は極論かもしれないが、〈この指とまれ方式〉で役員が集まるような「ラクにたのしく」活動ができるPTA組織をつくっていけば夢物語ではなくなっていくだろう。その結果、「コワい」と思う人も自然と減少していき、ハッピーなPTA組織が完成するのではないだろうか。

わたしも本書を教科書として、微力ながら「P」の立場と「T」の立場から改革を進めていきたい。

 

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栁澤 靖明(やなぎさわ やすあき)

川口市立小谷場中学校事務主任。著書『本当の学校事務の話をしよう: ひろがる職分とこれからの公教育』では、事務職員という立場から学校の現状やこれからの公教育の在り方を提言。

「事務職員の仕事を事務室の外に開く」をモットーに、事務室だより『でんしょ鳩』などで、教職員・保護者・子ども・地域へ情報を発信。就学援助制度の周知にも力を入れて取り組んでいる。
さらなる専門性の向上をめざし、大学の通信教育課程で法学を勉強中。ライフワークとして、「教育の機会均等と教育費の無償性」「子どもの権利」を研究。
共著に『保護者負担金がよくわかる本』(保護者負担金研究会=編著、学事出版)、『つくろう! 事務だより』(事務だより研究会=編著、同)などがある。