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学校教育をよりよくしたいと思う方、そして現場でがんばる先生たちにおススメの本を紹介します。

鈴木敏文 わがセブン秘録

鈴木敏文 わがセブン秘録 (紹介:妹尾昌俊)

わがセブン秘録

わがセブン秘録

 

この人がいなかったら、日本人の買い物はまったくちがった世界になっていたであろう。1973年にセブン‐イレブン・ジャパンを設立し、コンビニを全国を広げ、流通業界を牽引し続けてきた鈴木敏文氏。氏がすぐそこで話しかけてくれているような本が本書だ。

多くの方は軽めのビジネス書、あるいはサクセスストーリーの自伝的なものとして読むかもしれないが、本書のメッセージはとても深い。本書は、鈴木さんが仕事で大切にし続けてきたことを教えてくれるアドバイス集である。学校関係の方や行政職員にも、実にヒントが多い。

おにぎりもお弁当もATMも、最初はみんな猛反対だった

ところで、今ではおにぎりと言えば、コンビニの代名詞的な存在だが、何個くらい売れているか、ご存じだろうか?

セブン‐イレブンだけでその数、年間17億個だそうだ(本書p.203)。しかし、このおにぎりや弁当は、鈴木さんがやろうとする前は、周りは総反対だった。家庭でつくるものをわざわざ買いに来るのか?と、売れっこないとみんなが言ったそうだ。実際、当初は1店舗で1日に2、3個しか売れなかったが、地道な努力の積み重ねで今日の姿がある。

コンビニ内のATMも今となっては、日本人にとってなくてはならないものだが、最初は手数料収入だけでペイできるわけがないと、セブンのメインバンクの頭取が直々にやめておきなさい、と鈴木さんのところにアドバイスに来たほどだったという。

そもそも、コンビニを日本に導入するときからして、周りはほとんど反対のなかで鈴木さんは走ってきた。

すでにあるものから見いだし結びつける

超ヒットメイカーである鈴木さんは、「どうしてあなたは他の人が見えないものが見えるのか?」と質問されたこともあると言う。彼はなにがちがうのか、その真髄の一端に触れることができるのが本書だ。

わたしとしてはその都度、そんなに難しいことを考えて、発案したり、考案したわけではありません。

新しいものを生み出すといっても、それは何かを創造するというより、世の中にすでにある多くのもののなかから何かを見いだし、結びつけてみようという発想をしてきました。(p.61)

 

おでんは1970~80年代のころは、まだ夕方になると街角に屋台がくり出してきて、明け方までお客が腰かけている光景をよく見かけました。
それを見て、「おでんは日本人の生活から切り離すことができない食べものではないか」と考え、コンビニエンスストアと結びつけたことで、”コンビニおでん”という新しいカテゴリーが生まれました。(p.62)

ここがひとつのポイントだと思う。この話はドトールコーヒーの創業秘話(鳥羽博道氏)とも似ている。セブンの話からは少し脱線するが、紹介する。

パリのシャンゼリゼ通りで地下鉄から降りたビジネスマンが次々と喫茶店に入っていって、立ったままコーヒーを飲んでいるのを見た時です。これは当時、かなり異様に感じましたね。日本ではそういう習慣は全くありませんでしたから。よくよく見ると、立って飲むのとテラス席で飲むのとではコーヒーの値段が違う。心の中で「これだ!」と叫びました。

 (出所)日経ビジネス記事

http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20141222/275452/

1970年代にヨーロッパ視察での一コマだ。同じ業界人20、30人も同じ光景を見たであろうのに、鳥羽さんだけがスタンド式のコーヒー店が日本でもはやるのでは、とのインスピレーションを得た。

つまり、0から1を生み出すのではない。すでにあるものからヒントを得るのだが、同じことを見ていても、見る人によってちがうということである。

私見では、やはりその人に強い問題意識や好奇心があるかどうかが分かれ道だと思うが、そろそろセブン秘録に話を戻そう。

過去の延長線上でものを見るのはラクだが

人間は過去の延長線上で考えてしまいがちです。それは、これまでの延長線上で考えたほうが、楽だからです。

昨日と同じことを今日もやり、明日もやる。しかし、楽なほうに流れたときから、市場の変化に取り残されていく。(p.73)

つまり、反対していた周りの多くは、過去の延長線上でしか見ていなかった、だから、市場の潜在ニーズをつかまえられなかったのではないか、と鈴木さんは分析している。そして、彼はなにがちがったかと言えば、徹底的に顧客の立場になって、よいものは何か考えてきたことにある、ということが本書全体を通じて語られる。次の箇所は、その象徴的なエピソードだ。

コンビニ店舗でのおにぎりやお弁当の販売も、日本人も外食の機会が増えてきたなかで、「アメリカのホットドッグに相当するような日本型ファストフードがあったらいいな」と考えたのが始まりでした。

・・・(中略)・・・
セブン銀行の設立も、「24時間365日、いつでも下駄履きで近くのコンビニで小口現金を出したり入れたりできたら便利だ」と思っただけで、特に難しいことを考えたわけではありません。(p.74)

過去の延長線上でものを見るのが得意な組織の人へ

ここまで紹介を読んだみなさんはどう感じただろうか?たとえば、こんな感じ?

なるほど、鈴木さんの発想の原点、哲学と言ったらよいか、大切にしていることはよくわかった。でも、なかなかできることではないよなあ。。。

うちの上司なんてほんと頭がカタイ、過去の延長線上でしか見ない人だし。

鈴木さんみたいに自分がやるぞって決められる立場にもほど遠いし。小さな予算ひとつ自分だけでは通らないしなあ。

こうした気持ちのももっともだと思うが、本書では次のアドバイスもある。

「できない理由」をあげる前にもう一度問い直してほしいのは、いま、「できない理由」と考えていることは本当に「できない理由」なのかということです。(p.97)

セブンが強いのには理由がある

学校や行政では、できない理由を言うことに価値を見出している(=頭がいいと勘違いしている?)人もけっこういるからやっかいだ。そんな組織のなかでも、鈴木さんほどではないにしても、どうすれば現状をブレイクスルーしていけるだろうか。顧客(学校では一義的には子ども)のために新たなことにどうすればチャレンジできるだろうか。

そんなモヤモヤをもっている方もいると思う。僕は本書を読んで、鈴木さんの強烈なキャラクターなりリーダーシップは改めて感じつつも、多くの組織や人にも共通する秘訣を学んだ気もした。一部僕なりの解釈も含むが、なぜセブンであれほどイノベーションを多く生み出すことができたのかは、次の図に整理できると思う。

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長くなるので詳しくは説明しないが、①、②についてはすでに紹介した。③は周りから反対があっても、ぶれない軸となる理屈をちゃんともつこと、よいと思ったことは粘り強く説得にあたることだ。この力が鈴木さんやほかのイノベーターたちを見ていても強いと思う。

でも、それはその人の独善や思い付きに過ぎないのではないか?という反論もあろう。そこで、④が大事で、しっかりよいと思ったことが現実にはどうなのか、お客様の行動としてはどうなっているかなどを検証してみることだ。セブンはPOSという購買データを活用して商品の品ぞろえや発注を見直すことを世界でもっとも先駆けて行った。ハーバードなどの一流のビジネススクールの教材となっているくらいだ。

学校や行政でも、簡単ではないとは思うが、③、④も大事にしていくこと、そんな視点をもちながら、本書を読むとより現実に役立てることができると思う。

最後に次の一節を引用して締めくくりたい。

自分の仕事の本質は何か、「未来を起点にした発想」を持ち、「お客様の立場で」考え抜く。目的が明確になれば、それを達成する手段として、いろいろな知恵や新しいアイデアも浮かぶはずです。それが、本当の意味で仕事をするということです。(p.193)

 

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妹尾 昌俊(せのお まさとし)

教育研究家、学校マネジメントコンサルタント、Books for Teachersの世話役。4人の子育てに修行中。野村総合研究所を経て、フリーに。教職員向け講演・研修などを行っている。

著書『変わる学校、変わらない学校-学校マネジメントの成功と失敗の分かれ道』では、活性化している学校とそうではない学校との違いを分析、今後の学校づくりの方向性を提言。

文科省の有識者会議やフォーラム、教員研修センターのマネジメント研修などでも講師を務める。

ブログ:

http://senoom.hateblo.jp