Books for Teachers

学校教育をよりよくしたいと思う方、そして現場でがんばる先生たちにおススメの本を紹介します。

My Best Books 2017

もう早いもので大晦日になりました。2017年いかがでしたでしょうか?

Books for Teachersの更新はなかなかできませんでしたが、またちょくちょくアップしていきたいと思います。まずは、今年読んだ本のなかから、とくに印象深かったものをピックアップしてお伝えします!

 

My Best Books 2017(斎藤 早苗)

文脈力こそが知性である(齋藤孝

知性というモヤモヤとした言葉を、文脈力というキーワードを使って、具体的な事例を紹介しながら教えてくれている
コミュニケーションがうまくいかない場合は、お互いに文脈が読めていないことが多いと思う。相手の文脈や、場の文脈、時代の文脈など、さまざまな情報を整理して考えられる力が求められる。
そうした文脈を読める力こそが知性である、という齋藤孝先生の主張に共感できた。
文脈力をつけるためには、自分の頭で考える癖をつける必要があると思う。思考することの大切さに気付かせてくれる一冊だ。

語彙力こそが教養である (角川新書)

語彙力こそが教養である (角川新書)

 

 

問い続ける教師 教育の哲学×教師の哲学(多賀一郎・苫野一徳)

学校現場でひたむきに子どもたちと向き合ってこられた多賀一郎先生が、率直にご自分の教師としての在り方を振り返っておられることに、驚きとともに感動を覚える。
苫野一徳先生は、教育哲学の研究者の立場で、多賀先生が語られる実践の一つ一つに丁寧に向き合い、その意義を語られる。
お二人の文章が自然に溶け合って、読者に「在り方」を問うているようだ。
自分のこれまでとこれからを考えるきっかけになる一冊だ。

問い続ける教師―教育の哲学×教師の哲学

問い続ける教師―教育の哲学×教師の哲学

 

 

ヒトは「いじめ」をやめられない(中野信子

脳科学の知見から、いじめと脳ホルモンの関係をわかりやすく解説してくれている。
いじめは精神論ではなくならないだろうし、いじめのない社会はあり得ないという主張には説得力がある。もうそろそろ「いじめはなくならない」という前提で、いかに回避するか、リスクを減らすか、という視点で考える必要があるのではないだろうかと感じた。
人間が集団で生きている以上いじめはあって当然、という認識が広がれば、きっと有効なアプローチの方法もいろいろ出てくるのだろう。
別の視点を持つきっかけになる一冊だ。

ヒトは「いじめ」をやめられない (小学館新書)
 

 

My Best Books 2017(栁澤 靖明)

誰もボクを見ていない──なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか(山寺香)

2014年に埼玉県川口市で起きた少年犯罪事件のルポルタージュである。

両親の離婚後、労働意欲もなく浪費癖のある母親に引き取られ、住居を転々としているうちに「居所不明児童」となる。その後も、簡易宿泊所や野宿を繰り返しながら心理的・身体的・性的虐待が繰り返され、お金を得る目的で祖父母を殺害した。

「この罪は、本当は誰のものなのか?」と帯にあるように、居所不明児童・虐待・貧困が重なった結果の犯罪である。追い詰められたことにより「加害者」とはなったが、福祉行政が保護すべき「被害者」でもあったはずだ。

「特殊な少年が起こした特殊な事件」とは必ずしもいえなく、現代の社会問題を映す鏡でもある事件だろう。子どもにかかわる仕事をしている人はもちろんだが、すべてのおとなに一読をすすめたい。

誰もボクを見ていない: なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか
 

 

教育劣位社会──教育費をめぐる世論の社会学(矢野眞和、濱中淳子、小川和孝

現在、ある公立学校の運営費に対する公的負担(教職員の給与を除く)と私的負担(学校給食費や教材費など)の割合は2:8であり、ほとんどの運営費を保護者が私的負担している状態にある。

日本はなぜ教育熱心な国であるにもかかわらず、教育にかける公的負担が少ないのか。そして、受益者負担主義という名のもとに私的負担が慣習化しているのか。その答えを「世論」という切り口から分析している。

ひとつに「教育優位家族」の存在を明らかにし、教育劣位社会の裏には、教育を最優先する家計(教育優位家族の存在)、食費を節約してでも教育費を捻出しようとしている状態が報告されている。ほかにも教育財政を考えていくうえで貴重な世論調査が分析されている一冊である。

教育劣位社会――教育費をめぐる世論の社会学

教育劣位社会――教育費をめぐる世論の社会学

 

 

ブラック部活──子どもと先生の苦しみに向き合う(内田良)

部活動は、2017年12月に学校における働き方改革特別部会がまとめた「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」の中間まとめによれば、学校教育の一環であるため〈学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務〉と分類された。また、同月に「日本部活動学会」が設立されるなど、学校の働き方改革における各論分野として部活動が注目を集めている。

本書は、部活動を否定しているわけではない。問題を整理して無理なく続けていくためのエビデンスに基づいた提言が書かれている。また、顧問である教員の声と合わせてその家族の声も掲載され、現場で語られる以外の「部活動」の一面がみえてくる。

 

My Best Books 2017(渡辺光輝

あと少し、もう少し瀬尾まいこ

中学校の部活動を題材にした小説。

主人公、桝井は陸上部の部長。彼の通う中学校は、毎年駅伝大会でぎりぎり県大会に出場できるレベルだった。今年、いままで厳しく指導していた顧問が転勤してしまい、代わりに頼りない美術の先生が顧問になり部は窮地に立たされる。

桝井は、急遽学校中から駅伝選手の助っ人をかき集めることになった。桝井が白羽の矢を立てたのは、元いじめられっ子の設楽、金髪でヤンキーの太田、何を考えているか分からない吹奏楽部の渡部、そしてお調子者のバレー部のジロー……。

こんなでこぼこなメンバーで、駅伝大会に向けて練習を始める。さてどうなるのか??

この作品の最大の魅力は、章ごとに、ランナー一人一人が語り手となって、次々と視点を変えて同じ出来事が語られているというところだ。駅伝大会に向けて、様々な人物がどのような思いで向き合っているか、手に取るように伝わってくる。

読み進めるにつれて、ランナーの思いが重なり合い、物語が重層的に発展していく。(実は、顧問の先生だけ語り手にはなっていない。顧問はどのような思いで生徒と関わっているのか想像するのも楽しい)

瀬尾まいこさんは元中学校教師。生徒、先生のリアルな姿を描くのが抜群にうまい。中学校教師の私が読んで、「あるある」「そうだよなあ」と何度もうならされる描写がたくさんあった。中学生にとって、また教師にとって部活動がどういう存在なのか、あらためて考え直すためにも、この一冊をおすすめしたい。

あと少し、もう少し (新潮文庫)

あと少し、もう少し (新潮文庫)

 

 

断片的なものの社会学岸政彦

岸さんは社会学者。ホームレス、外国人、ゲイなどのマイノリティーに取材し、ライフヒストリーに耳を傾けるフィールドワークに長年取り組んでいる。

その岸さんが取材した過程で「ことばにできなかった断片」のみを拾い集めた、ユニークなエッセイ集がこの一冊だ。

はえてして、「ホームレスはかわいそう」「マイノリティーは社会的な弱者だ」などといった、「手頃な言葉」で、出会った人、出会った出来事を理解したつもりになる。

しかし、岸さんは、そういう安易な言葉で彼らをまとめるようなことはしない。「ことばにならないもの」をそのまま受け入れ、書き表そうとする。

読み手は、この書き表されたものに「ことばにならない」据わりの悪さを感じつつも、これこそが、誇張や脚色のないリアルな世界、「社会」そのものなのだという思いを新たにする。

「突き放された感じ」を与える読後は、柳田国男の『遠野物語』以来の衝撃だった。 そんな岸さんの拾い集めた「断片」に出会いたい人は、ぜひ読んでみて欲しい。

断片的なものの社会学

断片的なものの社会学

 

 

それでも、日本人は「戦争」を選んだ (加藤陽子

東京大学歴史学者、加藤先生が、栄光学園中高の歴史研究部員を前に、手加減抜きで歴史講義をした楽しい本。 中「なぜ戦争をしたのか」「当時の人々はどのような思いで戦争を受け入れたのか」という中高生の直球勝負の問いに向かい、丁寧に語りかける情熱に圧倒される

近代以降、日本が起こした四つの戦争(日清戦争日露戦争日中戦争、太平洋戦争)のプロセスを、国際関係、外交、政治の視点から、手紙や手記などを丹念に掘り起こし、膨大なデータでよみがえらせていく。一つ一つの戦争の歴史が、太い太い一本の線として結ばれていく先生の語りは見事というほかない。

歴史、とりわけ戦争というテーマは、イデオロギーや信念で語られがちだ。しかし、歴史学者は、冷静に、客観的に、データをつきあわせて新しい事実を露わにしていく。その手腕は鮮やかだ。

特に私が印象に残ったのは、日中戦争時、中国の少壮の役人が、事実を冷静に受け止めつつも、臥薪嘗胆に国家が生き残る戦略を練っていたという事実だ。中国の底知れないパワーの存在に驚かされた。(日本の軍部が、楽観的すぎるデータで、たいした議論もせずに無謀な戦争に突き進んでいった事実と対照的である) 

また、戦争に突き進む当時の日本で、政治家だけでなく市井の人々(学生、有権者など)がどのような思いでこれを支持をしたのかも知ることができて、目からウロコだった。 加藤さんが言うには、日本にとって戦争は、つねに「侵略」ではなく「安全保障」であったそうだ。この卓見は、決して過去の日本に向けて述べているだけではなかろう。

これまで読んできたどんな近代史の本よりもスリリングな一冊だった。

それでも、日本人は「戦争」を選んだ (新潮文庫)

それでも、日本人は「戦争」を選んだ (新潮文庫)

 

 

My Best Books 2017(妹尾昌俊)

失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織(マシュー・サイド)

本書の内容は、翻訳版のサブタイトルがうまく表している。

失敗から学習してきた組織として、航空業界が取り上げられている。1912年当時、米陸軍パイロットの14人に8人が事故で命を落としてた。それが今日では、欧米で製造されたジェット機の事故率は100万回につき0.41回にまでなった。

それに対して、ひどいのは医療業界である。1999年の米国のレポートによると、4万4千人~9万8千人近くが回避可能な医療過誤によって死亡している。毎年である。英国の研究によると、10人に1人の患者が死亡または健康被害を受けているという。

両者のちがいはどこにあるのか?ヒューマンエラーが起きやすいかどうかという業務の性質もあるだろうが、著者によれば、失敗への向き合い方であるという。

・ある事象に集中するあまり、別の選択肢が見えなくなる

・組織の上下関係で適切な対処への意見が言えない、聞き入れられないケースが多い

・人はウソを隠すのではなく信じ込む

など、失敗の原因を非常に刺激的なエピソードや研究成果を交えて解説している。

本書を読むと、学校や教育行政は失敗から学んできただろうか、考えさせられた。

失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織

失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織

 

 

なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか(山本崇雄)

新学習指導要領の目玉のひとつは、「主体的、対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」。しかし、グループワークを多用したらよいといった短絡的な、形をなぞるような実践も少なくないと聞く。どれだけの教師や教育行政関係者がアクティブ・ラーニングの本質を理解しているだろうか、やや不安だ。

そんなとき、わたしが講演などでもよく紹介するのが、本書だ。都立両国高校・中学校での実践である。著者の山本先生はいまは異動されているが、両国高校・中学には、脈々と受け継がれている「教えない授業」のヒントが本書に書かれている。

しかし、わたしからみると、本書の最大の魅力は、アクティブ・ラーニングの方法論ではない。HowやWhatよりもWhyのほうである。なぜ山本先生は、超進学校にありながら、「教えない授業」に舵を切ったのか?それは3.11のときの体験が大きいという。ネタバレになるので、このへんにしておくが、ここに注目して、自分の授業実践や学校運営に参考になるところを読まれることをオススメする。

なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか

なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか

 

 

5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人(熊谷徹)

まずタイトルが秀逸だ。定時に帰る人が多く、有休消化も100%、夏休みは2週間以上のバカンス、それでいて労働生産性は日本の1.5倍、それがドイツ。

わたしにとって2017年は学校の働き方改革に邁進した一年だったのだが、本書はたいへん支えになった。

・働き方改革なんてできるのか?

・いまでもそんなすごく非効率な仕事の進め方はしていないでしょう?

・早く帰ることと、成果を上げることは両立するんですか?

そんなギモンをもつ方は、わたしだけではないと思う。本書を読むと、このギモンがすっきり晴れるわけではないが、ヒントをもらえる。もちろん、ドイツと日本で一概にこうこうと比較するのは危険だが、ドイツの実践から学べることも多いと思った。

一番印象的だったのは、ドイツでは1日10時間を超える労働は禁止されていること。また、6ヶ月の平均労働時間は1日8時間以下にしなくてはならない。この上限についての例外は一部の職種を除いてはあり得ない、のだそうだ。これに違反していることが発覚すると、管理職はポケットマネーで180万円近い罰金を払わされるケースもあるという。

働き方改革には地道な努力や意識改革も重要だと思うが、それらに頼るだけでは心のもとないのかもしれない。

 ★★★★★

いかがでしたでしょうか?

わたし(妹尾)にとっても読みたい本がてんこ盛りです。ぜひ2018年もよい年に!

bookfort.hatenablog.com