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学校教育をよりよくしたいと思う方、そして現場でがんばる先生たちにおススメの本を紹介します。

県庁そろそろクビですか?「はみだし公務員の挑戦」

県庁そろそろクビですか?「はみだし公務員の挑戦」 (紹介:妹尾昌俊)

県庁そろそろクビですか?: 「はみ出し公務員」の挑戦 (小学館新書)

県庁そろそろクビですか?: 「はみ出し公務員」の挑戦 (小学館新書)

 

本書は、佐賀県庁の職員、円城寺雄介さんが予算ナシ、知識ナシ、賛同する人ナシの、ないごとずくしの中から、救急車の到着時間を短縮させる仕組みをつくったノンフィクションだ。地方公共団体や国の行政職員はもちろん、学校教育に関わる方にとっても、挑戦することへの元気をもらえる、ほんとうに読んでよかったと思える一冊になると思う。

できない言い訳を考える人と、挑戦しつづける人と

彼はなにをしたのか、どんな「はみだし公務員」なのか。詳しくは本書や次のリンク先の動画を見てほしいが、救急車が搬送先の病院を探すとき、電話で問い合わせて、たらい回しにもあいながら必死でがんばっている姿を見た円城寺さんは、iPadを活用した搬送情報の共有・マッチングを思いつく。さまざまな障壁を乗り越えて、県下のすべての救急車にタブレットを配備し、前例のない救急医療の変革をもたらした。

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本書は、先日の読書会(おススメの本を紹介し合う会)で学校事務職員さんから紹介があった。学校現場と県庁ではちがう世界だが、共感する箇所が多くあったという。

公務員は、僕も多少経験があるけれど、ルールや予算、そして上司次第というしがらみの強い世界だ(企業でもそういうところは多々あるとはいえ、公務員はより強いかも)。ちょっとこれおかしいなあと感じたり、こんなことができるといいなと思いついたとしても、実行するのはかなり大変。実現させるにはなおさら、さまざまな壁がある。

できない言い訳をしているほうがはるかに簡単である。しかも、できなかった、やらなかったとしても、多くの場合、給料は減らない。それどころか、新しいことに挑戦するとなると、仕事を増やしてくれるなと周りからの反発をくらうことだってある。

円城寺さんが本書を書いた理由のひとつには、「公務員のイメージを変えたい」ということがあるという。

多くの人が公務員の魅力は安定していることだと思っているかもしれないが、私は「社会のために挑戦できること」が公務員の魅力だと思っている。(p.20)

 

伝えたいことは、公務員という世の中で最も変革に縁遠く、何もしないと思われている仕事でも、はみだす覚悟さえあれば意外に何でもできるということだ。(p.23)

はみだすこと自体に意味があるのではない。誰かのため社会のため何かを達成する道すがらで、はみださざるを得ないことが起きたらそれを恐れるべきではない、ということだ。(p.26)

このあたりもそう、本書にはしびれる名言にあふれている。

目の前のしごとだけで満足していないか?

第2章では、円城寺さんが北川正恭氏の勉強会に参加したときに「お前たちは給料泥棒だ!上が悪い、組織が悪いと周りのせいにして自分のできることしかしていない」とガツンと言われたシーンが語られる。

はじめは何のことを言われているのがわからず北川さんに食ってかかった円城寺さんだが、こういうことだと分かったという。

私たちは知らず知らず与えられた仕事、目先の業務をこなすことで、仕事を「やったつもり」になっている。だが、それは、本来あるべき姿やどうすればもっと自分たちが地域に価値を生み出せるのかという前提での仕事ではない。(p.90)

 

命じられたことに対して適切に業務を執行することに関しては、仕事のできる公務員だったわけである。ところが・・・(中略)・・・それだけでは駄目だという。そもそも、その命令は本当に住民を幸せにするのかという、より本質的なところから自分たちが考え直すことを迫られた。(p.86)

あなたのしごとは何のため?

与えられた仕事、目先の業務だけでしごとした気になっていないか、県庁とはちがう点も多々あるにせよ、学校や企業に引きよせても、うなずける話ではないだろうか?だれのため、なんのためのしごとか、というミッション、意味づけによって、しごとの質やモチベーションは大いに変わってくる。

業界はちがうけれど、スタバの人材育成も、そもそも論を大切にしている。スターバックスコーヒージャパンの元CEO岩田松雄氏は「ほとんどがバイトでもお客様を感動させられる理由」として、次のように述べている。

ミッションを徹底教育したあとは、権限委譲をして、その実現のための自主性と創造性を発揮してもらうこと。これこそが、スターバックスの接客の核心なのです。

ちなみにスターバックスに新しく入ったパートナー(アルバイト等のこと)にかける教育(研修等)の時間は70時間にもおよぶという。研修では、ミッションについてもかなりの時間話し合われ、「何をやりなさい」ではなく、「なぜそれをやるのかを考えなさい」というスタンスを貫いているそうだ。

ミッション 元スターバックスCEOが教える働く理由

ミッション 元スターバックスCEOが教える働く理由

 

 

僕もときどきこの話は学校の方向けにもする。事務職員さん向けの研修会であれば、目の事務処理をミスなくしっかりやること、これはすごく大変で、大事なことだけれど、それだけがあなたのやりたいことでしたっけ?と。

つい先日は副校長・教頭向けの研修だったのだが、「なんのために副校長・教頭になったんでしたっけ?校長はダメ、教職員も動かないとばかり言ってないで、あなたは何を志していますか?」と問いかけた。

 

なぜ志とモチベーション高くしごとに打ち込めるのか?

ここまで読んで、あるいは本書を読んで、「円城寺さんのようなタフでアツい人だから、苦難を乗り越えることができたんだ、オレは、わたしはそこまでなれないな」という感想をもつ方もいるかもしれない。

しかし、本書で一貫して述べられているのは、円城寺さんがもともと才能豊かであったり、人脈があったりとなにかスペシャルな人というわけではないこと、試行錯誤を重ねながら進めてきた軌跡である。

円城寺さんが新人のころ配属された用地買収の業務。地権者に背広で名刺交換をしようとして、そんな綺麗な恰好をして、おれの土地もちゃんと見ていないような奴とは話したくない、と怒られたシーンが語られている。

どんな失敗も、そこから何も学ばなければただの失敗だが、学べることがあればそれは失敗ではなく経験である。(p.46)

ここからも、そして先に引用したTEDの動画でもわかるように、円城寺さんは徹底して現場で見て、体験することを大事にする。ぼくはそこが彼の、はみだしてまで挑戦しつづけるモチベーションのもとになっているのではないかと思う。現場を見ることで、当事者意識がちがってくるからだ。

ここでも近い話を思い出した。NPOで病児保育という社会課題に10年以上立ち向かっている駒崎弘樹さんはこう述べている。

ニュースで見て、新聞で見て、友達に聞いて、自分で体験して、何となく許せなかったこと、納得が行かなかったこと、悲しかったこと、心動かされたこと。こうした棘に、実際に会いに行けばいいのだ。・・・(中略)・・・現場に飛び込むことで、僕たちの心はさらに揺さぶられる。そしてもっと知りたくなる、あるいはさらに深い問題意識が生み出されてくる。(p34)

社会を変えたい人のためのソーシャルビジネス入門 (PHP新書)

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あの人のようにいかないな、と思うのは人情だけれど、まずは現場に行く、よく見ることから始めてみたいと思う。

実現するのだと最初に決める

最後に強くこころに残った次の一節を引用する。

もしも、最初から「できない理由」ばかり考えていなら、絶対に救急搬送情報の見える化は実現しなかっただろう。最初に実現するのだと自分の中で決めてしまえば、後はもうひたすら、さまざまな方法を勉強しながらできる方法を考えてやってみる。それこそが大事なことなのではないだろうか。(p.171)

 

※ちょっと宣伝で、読書会をこんど東京でやります。

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妹尾 昌俊(せのお まさとし)

教育研究家、学校マネジメントコンサルタント、Books for Teachersの世話役。4人の子育てに修行中。野村総合研究所を経て、フリーに。教職員向け講演・研修などを行っている。

著書『変わる学校、変わらない学校-学校マネジメントの成功と失敗の分かれ道』では、活性化している学校とそうではない学校との違いを分析、今後の学校づくりの方向性を提言。

文科省の有識者会議やフォーラム、教員研修センターのマネジメント研修などでも講師を務める。

ブログ:

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