Books for Teachers

学校教育をよりよくしたいと思う方、そして現場でがんばる先生たちにおススメの本を紹介します。

『アクティブ・ラーニング時代の教師像』

「アクティブ・ラーニング時代の教師像」(紹介:斎藤早苗)

アクティブ・ラーニング時代の教師像: 「さきがけ」と「しんがり」の教育論 (教育単行本)

アクティブ・ラーニング時代の教師像: 「さきがけ」と「しんがり」の教育論 (教育単行本)

 

本書では、2人の著名な現役教師、堀先生と金先生が往復書簡を交わしながら、お互いの思いや考え方の違いに戸惑いながらも、これから始まる「アクティブ・ラーニング時代」に、教師としてどのような在り方を目指すべきかを示してくださっている。

 一方で、金先生の悩みに、堀先生が寄り添い、丁寧に言葉を紡ぐことで、金先生がどんどん変わり、成長しているさまが感じられる「成長記」でもある

 本書には、多くの若い教師が求める「授業テクニック」はほとんど出てこない。それを期待して読むと、えっ?と思うかもしれない。

しかしこの本に書かれていることは、もっと大きな、教師として、いやそれだけではなく、人としてどう生きるかというテーマの一端を見せてくれている。

教師だけでなく、多くの人に読んでほしいと思う一冊である。

 

金先生の「揺れる想い」

最後まで読んで、まず思ったことは、「金先生が愛おしい」ということだった。

本書の構成として、まず金先生が想い(悩みが多い)を吐露し、それに対して堀先生が返信をする形式になっている。

金先生の往信には、若手から中堅に差し掛かる時期の揺れ動く想いが綴られている。

一生懸命やってきたことに対する疑問がわいてきて、戸惑う気持ちも正直に綴られている。

堀先生からの返信には、明確な答えはどこにもない。

なんだかはぐらかされたような気持ちになりながらも、堀先生の意図することを真摯に考え続ける金先生の手紙が続く。

そんなやり取りを見ていて、私は、たまらなく金先生が愛おしくなった。突き放されても、必死に喰らい付いていこうとする金先生を、心から応援したいと思った。

これは、私が「お母さん的」な視点で読んでいるからなのだろうか。

それだけではないだろう。きっといろいろな立場の読者の皆さんも、同じような気持ちになるのではないだろうか。それは、金先生の姿勢に共感するからなのだと思う。

金先生は、本書の中で、ご自身の出自のことなど、とてもセンシティブなことにも触れられている。心の中の黒い部分も吐き出し、自分を丸ごと受け止めようとしていた。

その誠実さに感動した。

行きつ戻りつしながら揺れる姿は、とても人間くさい。その人間くささに共感するのだ。

 

堀先生の「育てたい想い」

本書には、堀先生の「人を育てるエキス」がたっぷりと詰まっている。

堀先生は、「こうしなさい」「このようにすればいいよ」といった直接的な指示は一切されていない。

だが、堀先生の想いを丁寧に言葉にされている。

それを、金先生は受け止め、自分なりの解釈をし、自分に引き寄せて考え、さらには自分の中に新たな「問い」を生み出している。

お互いを触媒にしながら、堀先生は、金先生の悩みや考えを交通整理して、本人が何を望んでいるのか、どうありたいと思っているのかを少しずつ見える形にしている。それも、本人が自分で気付くように仕向けている。

これは、本当にすごいことだと思う。

こうしたやり方(育て方)は、じっくりと時間をかけないと難しいだろうと思う。

お互いのことを深い部分で理解しようとしなければ、表面的なアドバイスで対処療法するだけに終始してしまうだろう。

また、育てられる側にも、こんなにディープなやり方は嫌がる人がいるだろう。

簡単に「今すぐできるアイデア」がもらえればいい、と考えている人だって多いだろうし。

「考えることが苦手、面倒」「内省はきつい」という人は、大人にもたくさんいる。

しかし、時代は「アクティブ・ラーニング」を求めている。というか、学校ではやらざるを得ない。

この「じっくり考える」「自分で問いを見つける」ということは、まさしくアクティブ・ラーニングなのだろうと思う。

だから、堀先生が金先生への返信の中で見せてくれた「人を育てるエキス」は、「アクティブ・ラーニングのエキス」でもあると思うのだ。

アクティブ・ラーニングは、活動するだけならいつでもすぐに始められるが、本来の目的である「自ら考える子どもを育てる」ということを考えると、じっくりと取り組んでいくことが大切だろうと思った。

 

目に見える成長

本書を通して、金先生は大きく成長されたと思う。

一見すると、よけいに迷いや悩みが増えて、新たに生まれた問いにも答えが見つかった様子はない。

でも、堀先生の言葉を噛みしめて、一生懸命考え続けることで、これまで考えたこともなかったようなことに気付いたり、いろいろなことの因果関係に気付いたり、なにより「考えることの楽しさ」のようなものを感じられたのではないだろうか。

金先生の文章からは、揺れながらも、一歩ずつ前に進んでいきたい、という強い思いが感じられる。

いろいろな人との出会いによって学ぶことは多い。

厳しい指摘を受けながらも、「自分のために、言いにくいこともあえて言ってくださる」と感謝の気持ちが持てる金先生の素直さは、本当にステキだ。

すばらしい「成長記」を読ませていただいた。

ついウルウルしてしまう私は、やっぱりお母さんなのだろう(笑)

 

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斎藤 早苗(さいとう さなえ)

愛知県在住の3人の子どもたちの母。頼まれると断り切れない性分で、幼稚園から中学校まで、何度もPTA活動に参加。小牧中学校PTA元会長。小牧中学校校長(当時)の玉置崇氏との共著に『「愛される学校」の作り方―悩める校長とPTAを救う!実践とノウハウ』がある。