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Books for Teachers

学校教育をよりよくしたいと思う方、そして現場でがんばる先生たちにおススメの本を紹介します。

豊田章男が愛したテストドライバー

豊田章男が愛したテストドライバー(紹介:伊藤智章)

豊田章男が愛したテストドライバー

豊田章男が愛したテストドライバー

 

社長を支えた男

トヨタの創業者の孫である現社長は、年に200台以上の車に試乗し、有志でレーシングチームを作って自らハンドルを握る筋金入りの車好き。ただ、就任早々にリーマンショックやアメリカでのブレーキ事故に端を発するリコール問題で窮地に立たされ、「社会的な死」までも覚悟して日々の業務に当たってきた。そんな「三代目の御曹司」を支えたのが、「トップガン」と呼ばれたテストドライバーの最精鋭を束ねる老ドライバーだった。

 テストドライバーの仕事は、試作車を走らせ、不具合を発見するだけでなく、乗り心地の気持ちよさ、そのメーカーならではの「味付け」をすること。単に運転がうまいだけでなく、ステアリング越しに感じられる走行感覚から技術者に改善のポイントを伝えること。速度や車にかける負荷を最大限にかけ(時速200~300㎞ぐらいは平気で出す)、極限の状況下でのパフォーマンスを測る命がけの仕事。

この本の主人公の一人である成瀬氏は、他のドライバーが「前輪のこのあたりの感覚がおかしい」というところを、「前輪の、ここの部品をこうしろ」と指示を与えられるほどにメカニックにも精通していた。ただ、長いキャリアの集大成として一切の調整を任されていたレクサスの最高級スポーツカーの調整運転中に事故死してしまった。

自動車メーカーとは、職業人とは、経営者とはいかにあるべきか

著者は、この「伝説のテストドライバー」の死亡記事から、彼と社長との「師弟関係」に注目し、関係者への丹念な聞き取りを積み上げて本書を綴っている。本書の主人公は2人だが、2人を取り巻く様々な人達の人間模様が物語に深みを与えている。社長の父、祖父、成瀬氏の下積み時代の先輩メカニック達、レース仲間、ライバル社のドライバー、そして成瀬氏の妻と息子達・・・単なる「社長と平社員の身分違いの友情」的な話題ではなく、自動車メーカーとは、職業人とは、経営者とはいかにあるべきかという問いかけがなされている。

「いい車を作ろう」と愚直に呼びかける社長。しかし、「いい車」とは何か、社員の立場による解釈の違いは大きく、妥協もしなければならない現状に苦悶する日々。巨大企業、超優良企業だからこそ、経営者には「町工場のオヤジ」の感覚が必要だという信念。「創業家」故の悩みと使命感。そして、自らの手による人材育成の対象を、社長にまで広げようとした「サーキットのマイスター」。車好きはもちろん、経営論、人材論、キャリア形成など、様々な角度から読んで人に話したくなる本。淡々としてなおかつ力強い筆致で、非常に面白かった。

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伊藤 智章(いとう ともあき)

静岡県立高校教諭・日本地図学会学校GIS教育専門部会主査。NPO法人「伊能社中」ティーチング・フェロー。2016年9月に出した『地図化すると世の中が見えてくる』が人気。ほかに『いとちり式 地理の授業にGIS』。教育現場のニーズを踏まえ、「ほぼ無料」「教科書準拠」をモットーに、デジタル地図を使った教材と、作り方のノウハウを多数発表している。

ブログ:

http://itochiriback.seesaa.net/